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「会社員限定」60歳以降も働きながら年金を増やす3つの裏技

「会社員限定」60歳以降も働きながら年金を増やす3つの裏技

60歳定年後の年金戦略—なぜ「裏技」が必要なのか?

会社の常識と年金の非常識:定年後の収入のパラドックス

多くの会社員にとって、60歳や65歳の定年を迎えた後も継続して働くことは、単なる収入の確保だけでなく、社会とのつながりや生きがいを維持するために不可欠な選択となっています。しかし、継続雇用や再雇用制度を利用して働き続けた際、思いがけない収入の壁に直面することがあります。それが日本の公的年金制度、特に老齢厚生年金と在職老齢年金制度が作り出す「収入のパラドックス」です。

年金制度は、労働者が長く、高い報酬を得て働くことを奨励する一方で、特定の収入水準を超えると年金が減額されるという複雑な調整メカニズムを持っています。単純に「頑張って働くほど、年金がカットされる」という現象が発生するため、努力が報われないと感じる方も少なくありません。この複雑な制度を理解し、そのルールを逆手にとって収入を最大化するための戦略こそが、ここでいう「裏技」です。裏技とは、制度が持つ複雑な計算ルールや適用除外規定を戦略的に活用し、単に「働き続ける」以上の効果、すなわち「年金受給額の最大化」と「年金カットの回避」を両立させるための手法を指します。

会社員限定の最強の武器:厚生年金と在職老齢年金

会社員が60歳以降の収入戦略を立てる上で中心となるのは、老齢厚生年金です。老齢厚生年金は、会社員として働いた期間と、その期間の平均報酬に基づいて算出される、公的年金の二階部分にあたります。会社員は継続して厚生年金に加入し続ける義務と権利を持つため、この制度をどのように利用するかが鍵となります。

ここで重要になるのが、在職老齢年金制度です。これは、60歳以降も厚生年金に加入しながら働く人に対し、給与と年金の合計額が一定額を超えた場合に年金の一部を支給停止する仕組みです。多くの人が在職老齢年金制度を「働く意欲を削ぐ制度」と捉えがちですが、「収入を設計するためのルール」として考え直してください。在職老齢年金制度の仕組みを正確に把握することで、年金をカットされずに済む最適な給与水準を見極め、働くことによる年金増額効果を最大限に享受できます。この制度は老齢基礎年金(国民年金)には影響せず、老齢厚生年金のみを対象とするため、特に高額な厚生年金を受給する会社員にとって、その戦略的運用は不可欠です。

年金制度の基本は下記の記事をご覧ください。

3つの裏技をマスターするロードマップ

定年後の会社員が年金受給額を最大化するために採用すべき戦略は、以下の3つの柱で構成されます。

裏技①:積み増し戦略(積立) — 60歳以降も厚生年金に加入し続けることで、将来の年金受給ベースを確実に積み増す戦略。

裏技②:タイミング戦略(繰り下げ) — 年金受給開始時期を遅らせることで、受給額自体を大幅に割り増しする戦略。

裏技③:設計戦略(在職老齢年金制度回避) — 給与の構造を精密に設計し、在職老齢年金による年金カットを回避し、手取り収入を最大化する戦略。

これらの裏技はそれぞれ独立して効果を発揮しますが、最も強力なのは、これらを複合的に組み合わせる「ハイブリッド戦略」です。

裏技①:働くことが最大の投資 – 積み増し戦略

60歳以降の厚生年金加入で年金受給額を増やす

60歳以降に継続して厚生年金に加入し、保険料を支払い続けることは、将来の年金受給額を確実に増やす、極めてローリスクでハイリターンな投資行為であると見なすことができます。

老齢厚生年金は、加入期間が長いほど、また平均標準報酬が高かったほど、受給額が増える仕組みです。60歳以降も働き続けることで、以下の2つの理由により年金受給額のベースが確実に増加します。

まず、理由その1:報酬比例部分の増加です。老齢厚生年金の年金額は、報酬比例部分と経過的加算額(および加給年金)で構成されます。60歳以降も厚生年金に加入すれば、たとえ再雇用で給与が下がったとしても、その加入期間と報酬に応じた分が報酬比例部分として将来の年金に上乗せされます。この追加分は、受給を始めるまで毎年、複利的に作用します。

次に、理由その2:加給年金・振替加算への影響です。配偶者がいる場合で、加給年金の条件を満たしていなかったとしても、厚生年金に加入し続けることで、将来的に加給年金などの受給要件を満たす助けとなる可能性があります。特に、再雇用時に給与が大幅に下がったとしても、厚生年金保険料を支払い続ければ、それ自体が将来の確実な年金資産となります。

65歳以降の年金「随時改定」の仕組み:毎年、年金額が再計算されるメリット

年金受給資格が発生する65歳以降も厚生年金に加入している場合、65歳以降の在職老齢年金受給者は、退職を待たずとも、毎年1回、年金額が自動的に再計算される「在職定時改定」(随時改定)の恩恵を受けます。

これは、前年9月までの厚生年金加入期間の貢献分が、翌年10月からの年金額に反映される仕組みです。例えば、65歳で年金受給を始め、その後も働き続けた場合、66歳、67歳となるたびに、前年1年間の貢献分が加算された年金を受け取ることになります。これは、市場リスクを一切伴わない、政府保証の「確定利回り投資」と見なすことができます。一般的な投資が不確実性を伴うのに対し、厚生年金への貢献は、将来の年金受給額という確定的なリターンを生み出すのです。特に、賃金や物価が上昇するインフレ環境下では、年金資産の目減りを防ぐ重要な役割となります。

デメリット分析:社会保険料負担は「投資」と考える

継続して働く上での最大のデメリットは、毎月の手取りから差し引かれる社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)の負担です。

しかし、この視点を転換することが重要です。健康保険料や介護保険料は現役世代の医療・介護サービス維持のためのコストですが、厚生年金保険料は将来、自身が受け取る年金額のベースを確実に増加させる「投資」であると捉えるべきです。裏技①の核心は、この「投資」によって生じる増額分が、在職老齢年金による現役時の年金カットリスクを上回る長期的なメリットをもたらす点にあります。継続勤務による増額は、仮に在職老齢年金によるカットを受けていたとしても、将来の繰り下げ受給額のベースを大きくするという二重のメリットがあるのです。

裏技②:タイミイングを操る – 繰り下げ受給の最大効果

年金の「繰り下げ受給」は本当にお得なのか?

年金の「繰り下げ受給」は、65歳から年金を受け取らずに待つことで、受給開始年齢を遅らせる戦略です。これは、特に60歳以降も安定した給与収入がある会社員にとって、最も強力な年金増額の裏技となります。

繰り下げ受給を選択した場合、本来の受給開始年齢である65歳から1ヶ月遅らせるごとに、年金月額が0.7%増額されます。これは年率換算で8.4%という驚異的な増額率です。この増額率は、一般的な銀行預金はもちろん、多くのリスクを伴う投資商品と比較しても、極めて高い確定利回りと言えます。

制度改正により、繰り下げ可能な上限は70歳から75歳に引き上げられました。最大で10年間(120ヶ月)遅らせることが可能となり、この場合、受給額は最大84.0%増加します。例えば、65歳で月額20万円の年金を受け取るはずだった人が75歳まで繰り下げた場合、その年金額は毎月36万8千円(20万円の1.84倍)になる計算です。この高利回りは、公的制度が提供する「長寿保険」としての側面も持っています。

繰り下げの最大の罠:「損益分岐点」の計算と平均寿命

繰り下げ受給の最大の懸念は、「長生きする前に亡くなったら損をするのではないか」という「損益分岐点」に関する疑問です。繰り下げた結果、増額された年金で、65歳から受け取った場合の総受給額を上回る年齢を損益分岐点と言います。一般的に、70歳まで繰り下げた場合の損益分岐点は81〜82歳前後、75歳まで繰り下げた場合は86歳前後とされています。

この計算は重要ですが、現代の年金戦略において、繰り下げは単なる総受給額の増加を目的とするだけでなく、「長寿リスクヘッジ」として機能する点が重要です。日本の平均寿命(特に女性)の伸長トレンドを考慮すると、80代後半以降の経済的不安を解消するための確実な手段として、繰り下げは非常に有効です。さらに、繰り下げによる増額分は、物価スライド(インフレ調整)の対象となるため、将来的な購買力の維持に貢献します。

リスクヘッジ戦略:夫婦で繰り下げ時期を分ける方法

繰り下げ受給は、世帯全体の収入の安定性を考慮した複合戦略が求められます。おすすめのリスクヘッジ戦略の一つは、夫婦の年金繰り下げ時期を分けることです。例えば、配偶者の一方(一般的に年金額の低い方)が先に年金を受給し、生活費の一部を賄うことで、年金額の高い方(会社員本人など)がより長く繰り下げられる状況を作り出します。これにより、世帯収入を途切れさせることなく、将来の「大黒柱」となる年金受給額を最大化できます。

繰り下げ受給の受給額シミュレーション(10万円/月の場合)

遅延期間開始年齢増額率月額
1年(12ヶ月)66歳8.4%108,400円/月
5年(60ヶ月)70歳42.0%142,000円/月
10年(120ヶ月)75歳84.0%184,000円/月

裏技③:年金カットを回避する – 収入の設計戦略

在職老齢年金制度の仕組みと注意点

裏技①で年金のベースを積み増し、裏技②で受給額を割り増す準備が整ったとしても、現役で働く間は「在職老齢年金」による年金カットリスクが付きまといます。この制度を深く理解し、意図的に回避することが裏技③の核心です。

在職老齢年金制度は、老齢厚生年金(基本月額P)と、働くことで得られる収入(総報酬月額相当額S)の合計額が、現在50万円(50万円の壁)を超えると、年金が減額される仕組みです。この「50万円の壁」が、戦略設計の最も重要な基準となります。

減額される年金=(基本月額P+総報酬月額相当額S−500,000円)÷2

この計算式から読み取れる最も重要な点は、合計額が50万円を超えた場合、超過した分の半額(50%)が年金から減額されるという事実です。これは、超過部分に対して事実上50%のペナルティ、あるいは50%の税率が課されているのと同じ経済効果を持ちます。例えば、合計額が50万円を10万円超えて60万円になった場合、5万円が年金からカットされます。この5万円を稼ぐために増額した給与10万円は、差し引き5万円にしかならないため、手取りの観点から見ると、非常に効率の悪い働き方になってしまうのです。この高いペナルティゾーンを避けるための精密な収入設計こそが、この裏技の目的です。

しかし、在職老齢年金制度はあくまで「働いている間の年金」を調整する制度であり、裏技①で解説した厚生年金保険料を支払い続けたことによる将来の年金増加(年金のベース)には影響を与えません。カットされるのは現在の受給分ですが、働いた分は将来の受給額ベースとして増え続けているため、短期的なカットと長期的な増額を切り離して考える必要があります。

定年後も働き続けるためのキャリアプラン

在職老齢年金制度の仕組みを逆手に取り、年金カットを回避しつつ、社会保険料の負担を最小限に抑え、手取りを最大化する戦略が、報酬構成の設計です。

この裏技の核となるのは、標準報酬月額を低く設定し、その代わりに賞与(ボーナス)の比率を増やすという報酬構成の変更です。

標準報酬月額を低くするメリット: 健康保険料や厚生年金保険料などの社会保険料は、毎月の標準報酬月額に基づいて算定されます。標準報酬月額を低く抑えれば、毎月の社会保険料の負担が減り、現役時の手取りが増えます。

賞与を活用するメリット: 在職老齢年金制度の計算では、賞与は1/12として総報酬月額相当額Sに組み込まれます。しかし、毎月の保険料計算とは異なり、この仕組みを利用することで、標準報酬月額による月々の固定費を抑えながらも、P+Sの合計額を緻密に50万円未満に保つことが可能になります。

報酬月額を低く、ボーナスを高く設定する契約戦略

企業人事担当者と給与交渉を行う際には、在職老齢年金の「50万円の壁」を明確な目標値として提示することが重要です。

例えば、P(年金月額)が25万円の社員の場合、S(総報酬月額相当額)は25万円未満に設定する必要があります。

理想的な報酬設計の例:
標準報酬月額:15万円(保険料を抑制) 賞与:年間120万円
この場合の総報酬月額相当額S: 150,000+(1,200,000÷12)=250,000円
P + Sの合計:250,000+250,000=500,000円

この設計であれば、P+Sはぴったり50万円となり、在職老齢年金による年金カットは発生しません。同時に、毎月の標準報酬月額が抑えられているため、社会保険料の支払いも最適化されます。

まとめ

定年後の働き方には、健康状態や生活への配慮 も重要ですが、年金戦略の観点からは、厚生年金に加入する義務が生じる働き方(フルタイム、または短時間労働者要件を満たす場合)を継続することが推奨されます。なぜなら、裏技①(貢献による年金積み増し)を享受するには、厚生年金加入が必須だからです。

キャリアプランの最終目標は、60歳から70歳までの「黄金の10年間」をどのように設計するかです。この期間に、裏技③を活用して在職老齢年金の調整を避けながら安定した給与収入を得て、その収入で裏技②(繰り下げ)を支えることで、将来の年金を最大化する設計図を描くことが重要です。

60歳以降の働き方と年金受給は、単なる手続きではなく、複雑な制度を理解し戦略的に設計する「金融工学」の領域です。この3つの裏技をマスターすることで、会社員は定年後も豊かで安定した生活を実現するための強力な武器を手に入れることができるでしょう。