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「孫」を養子縁組すると相続税が減るってホント?2割加算の落とし穴

相続税の節税対策として、「孫を養子縁組すれば税金が安くなる」という話を聞いたことがあるかもしれません。これは事実ですが、単純に「孫を養子にすればお得」というわけではありません。安易に養子縁組をしてしまうと、税法上のルールや、家族間の感情的な問題など、多くの「落とし穴」にはまってしまいます。

この記事では、ファイナンシャルプランナー(FP)が、孫の養子縁組が相続税に与える影響と、特に注意すべき「2割加算」のルール、そして安易な縁組が招くトラブルについて、初心者にも分かりやすく解説します。

養子縁組が相続税を減らす仕組み

孫を養子にすることで相続税が減る仕組みは、主に二つの要因に基づいています。

要因①:基礎控除額の増加

相続税には、「基礎控除額」という税金がかからない枠が設けられています。

基礎控除額の計算式: 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

この式からもわかるように、法定相続人の数が多ければ多いほど、税金のかからない枠が広がります。孫を養子にすることで、法定相続人の数が増え、結果として基礎控除額が大きくなり、相続税の対象となる財産額(課税遺産総額)が減ります。

法定相続人の数基礎控除額(例)
配偶者と子1人(合計2人)3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
配偶者と子1人+養子1人(合計3人)3,000万円+(600万円×3)=4,800万円

要因②:生命保険や死亡退職金の非課税枠増加

生命保険金や死亡退職金にも、相続人一人あたり「500万円の非課税枠」があります。

非課税限度額の計算式: 500万円 × 法定相続人の数

法定相続人が増えることで、この非課税枠も増加し、受け取った保険金に対する税金が軽減されます。

なぜ相続人が多いと税金が減るのか

相続税は、財産を相続人全員で分けたものと仮定して税額を計算します。相続人が増えると税金が減る理由は、相続税の「累進課税制度」にあります。

累進課税制度とは、財産額が大きくなるほど税率が高くなる仕組みです(例:1,000万円以下は10%、3,000万円以下は15%など)。
相続人が増えると、財産を分ける人数が増えるため、一人あたりの取得額が小さくなります。その結果、適用される税率が下がり、相続人全員の税額を合計した全体の相続税額が減少する効果が得られます。

【子1人の場合】 財産を1人で相続 → 高い税率が適用される
【子2人の場合】 財産を2人で分割 → 一人あたりの財産が減り、適用税率が下がる

相続税の「2割加算」とは?

孫を養子にして節税を試みる際、最も注意すべきなのが「相続税の2割加算」というルールです。この加算によって、せっかくの節税効果が打ち消されてしまう可能性があります。

相続税の2割加算とは、法定相続人(配偶者、子、父母など)ではない人が財産を取得した場合、その人が納めるべき相続税額が20%増しになるという制度です。
対象となる主な人物: 孫、兄弟姉妹、甥や姪、内縁の妻など。

孫は、原則として法定相続人ではありません。親(子)が健在である孫は、税法上「相続を飛び越えて財産を受け取った」と見なされるため、この2割加算の対象になります。

ただし、以下の2つのケースに限り、孫であっても2割加算の対象外となります。

代襲相続人(だいしゅうそうぞくにん)として相続する場合
既に親(祖父母の子)が亡くなっている場合に、孫がその親に代わって相続権を得るケース。

生命保険金などの非課税枠のみを受け取る場合
養子縁組をしていない孫が、遺贈や贈与ではなく、生命保険の受取人として保険金を受け取る場合。

孫を養子にしても、その孫が納める相続税額は20%増しになります。増える基礎控除額によるメリットと、2割加算によるデメリットを比較した上で、本当にメリットがあるのかを慎重に判断する必要があります

安易な養子縁組が招くトラブル

税金対策のために安易に養子縁組を行うと、思わぬ家族間のトラブルや後悔を招く可能性があります。

トラブル① 実の親族との関係悪化

孫が養子になるということは、本来相続人である「孫の親(被相続人の実子)」から見ると、自分の相続分が減ることを意味します。これにより、実子と親族の間で感情的な対立が生じやすくなります。

また、養子も法定相続人となるため、遺留分(最低限保証された相続分)を主張する権利を持ちます。他の法定相続人の遺留分を侵害する形で財産を分けようとすると、法的な紛争に発展する可能性があります。

トラブル② 養子縁組は「節税」だけではない

養子縁組は、単なる税金対策ではなく、親子関係を法的に発生させる行為です。そのため、養親(祖父母)と養子(孫)の間には、法律上の扶養義務が生じます。また、養子になったからといって、実の親との関係が切れるわけではありませんが、家族内の力関係や立場に変化が生じ、複雑な感情のもつれにつながることがあります。

税法上の養子の人数制限

税金対策として養子縁組を行う場合、相続税の計算上、法定相続人に含められる養子の人数には以下の制限があります。

実子がいる場合: 1人まで
実子がいない場合: 2人まで

この制限を超えて養子縁組をしても、税金計算上の法定相続人の数は増えません。

まとめ:養子縁組は慎重に、専門家への相談が必須

孫の養子縁組は、基礎控除額を増やす有効な節税対策になり得ますが、「2割加算」という大きな壁があり、その効果を打ち消してしまう可能性があります。

メリットデメリット/リスク
基礎控除額が増える2割加算で税負担が増加する可能性がある
非課税枠が増える家族・親族間で感情的な対立が生じやすい
相続人の人数が増え、税率が下がる扶養義務などの法的な関係が発生する

相続税対策として養子縁組を検討する際は、節税効果のシミュレーションだけでなく、家族間の合意形成が最も重要です。必ず税理士やFPなどの専門家に相談し、デメリットとメリットを比較した上で、慎重に判断するようにしましょう。