
知らないと損!相続税のプロが教える「生前贈与」の賢い活用術
相続税の税率が高まる中、「少しでも税金を減らしたい」と考えるのは当然です。そのための最も有効で基本的な対策が「生前贈与(生きているうちに財産を贈ること)」です。
しかし、ただやみくもにお金を贈っても、かえって贈与税が高くついて損をしたり、ルールを間違えて意味がなくなったりするケースがよく起こります。
この記事では、ファイナンシャルプランナー(FP)が、相続税対策の鉄則から、生前贈与の2つの主要な制度(暦年課税と相続時精算課税)の賢い使い分けまで、初心者にも分かりやすく解説します。
相続税対策の鉄則は「財産の棚卸し」から始まる
生前贈与を始める前に、まず「あなたは相続税を払う必要があるのか?」を確認することが重要です。
ステップ① 財産の全体像を把握する(棚卸し)
相続税対策は、自分の財産を正確に把握する「財産の棚卸し」から始まります。
プラスの財産
預貯金、不動産(土地・建物)、株式、投資信託、生命保険(みなし相続財産)など
マイナスの財産(負債)
借入金(住宅ローンなど)、未払金、連帯保証債務など
このプラスの合計額からマイナスの合計額を引いたものが、「正味の財産額」となります。
ステップ② 基礎控除額との比較
相続税がかかるかどうかは、この正味の財産額が「基礎控除額」を超えるかどうかで決まります。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
正味の財産額 > 基礎控除額 の場合:相続税対策(生前贈与など)が必要です。
正味の財産額 ≦ 基礎控除額 の場合:原則として相続税対策は不要ですが、将来的な資産増加に備えて贈与を始めるのも手です。
相続対策は、この「基礎控除額を超える部分」をいかに減らすかが鍵となります。生前贈与は、この超える部分を圧縮する最も強力な手段です。
生前贈与を活用して財産評価額を下げる方法
生前贈与の基本は、「贈与税の非課税枠」を最大限に活用し、相続財産を合法的に減らしていくことです。
①暦年贈与の「年間110万円の非課税枠」をフル活用
贈与税には、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額から110万円を控除できる非課税枠があります。これを暦年課税(暦年贈与)といいます。
贈与を受ける人(受贈者)一人あたり年間110万円までなら、贈与税はゼロで、申告も不要です。
相続人(子)だけでなく、孫や子の配偶者など、多くの人に毎年110万円ずつ贈与することで、贈与総額と財産減少効果を最大化できます。
②証拠を残す「契約書」と「振り込み」
暦年贈与で税務署に否認されないための鉄則は、「贈与の事実」を明確に残すことです。
| 対策 | 目的 |
|---|---|
| 贈与契約書を作成 | 贈与者・受贈者双方の「あげます」「もらいます」という意思表示の証拠を残す。 |
| 銀行振込を利用 | 現金手渡しではなく、記録が残る銀行振込で贈与を行い、誰がいつ贈与したかを明確にする。 |
| 子や孫自身が管理 | 贈与されたお金を子や孫の口座で管理させ、親が勝手に使わないようにする。 (「名義預金」と疑われるのを防ぐ) |
通帳の名義は子や孫だが、印鑑や通帳を親が管理し、資金も親が出したものは、税務署に「名義預金」と認定され、相続税の対象になります。
暦年課税と相続時精算課税制度の違い
生前贈与には、暦年課税の他にもう一つ「相続時精算課税制度」という大きな制度があります。この2つの制度は全く異なるため、選択には注意が必要です。
| 比較項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税制度 |
|---|---|---|
| 非課税枠 | 年間110万円 | 生涯で2,500万円(特別控除) |
| 利用対象者 | 誰でも可能 | 贈与者が60歳以上、受贈者が18歳以上の子・孫 |
| 相続発生時 | 3年~7年以内の贈与は持ち戻し対象(法改正のため、相続発生時期により年数が異なる) | 贈与額全額を相続財産に加算(相続時に精算) |
| メリット | 毎年実施でき、確実に財産を減らせる | 2,500万円まで大きな財産を非課税で移せる |
| デメリット | 相続開始以前3年~7年間の贈与は相続税の対象になる(法改正のため、相続発生時期により年数が異なる) | 一度選択すると暦年贈与に戻せない |
2つの制度の使い分け
暦年課税が良いケース
相続財産が多いが、時間をかけてコツコツ減らしたい人。
少額を孫や子の配偶者など、多くの人に移したい人。
相続時精算課税が良いケース
財産が一気に値上がりする見込みがある場合(例:未公開株式、成長途中の不動産)。
贈与時の価値で相続財産に加算されるため、値上がり益に対する相続税を節約できます。
贈与税を支払うほうが得になることもある?
「贈与税を支払う=損」というイメージがありますが、暦年課税の非課税枠(110万円)を超えて、あえて贈与税を支払っても、トータルで見た相続税対策として有効な場合があります。
贈与税は最低10%から始まります。
相続税は、基礎控除を超えると最低10%から始まり、財産額によっては最高55%にもなります。
相続税の税率が20%や30%を超えることが確実な場合、贈与税の税率が10%や15%で済む範囲で一気に贈与してしまえば、結果的に将来の相続税の負担を大幅に軽減できることがあります。
まとめ:生前贈与は「今すぐ」始めるのが最大の節税対策
生前贈与の最大のメリットは、「時間を味方につけられること」です。特に暦年贈与は、毎年非課税で財産を移せる期間が長いほど、節税効果が高まります。
生前贈与は、ただお金を移すだけでなく、家族が贈与されたお金をどう使うかという人生設計をセットで考えることが重要です。
相続対策は「今日が一番若い日」です。まずは財産の棚卸しを行い、どの制度をどのように活用すべきか、ファイナンシャルプランナー(FP)や税理士といった専門家と相談しながら、最適な対策を早めにスタートさせましょう。