
【FPが解説】相続手続きの全体像を3ステップで理解するロードマップ
相続手続きは「複雑で時間がかかる」というイメージがあり、何から手をつけていいか分からず不安に感じる方がたくさんいらっしゃいます。
この記事では、ファイナンシャルプランナー(FP)の視点から、相続手続きの全体像を3つのシンプルなステップに分け、必要書類や期限も含めて分かりやすく解説します。
ステップ1:相続が開始したら最初にすべきこと(手続き開始から1ヶ月以内)
相続は、誰かが亡くなったときにスタートします。しかし、最初に行うべきことは「財産を分けること」ではありません。まずは、後のトラブルを防ぎ、手続きを円滑に進めるための準備と確認作業を始めましょう。
① 故人の遺言書の有無を確認する
遺言書は、故人の最終的な意思を示すものです。もし遺言書が見つかれば、原則としてその内容に従って財産を分けます。
遺言書がある場合:
自筆証書遺言(手書きのもの)が見つかったら、開封せずに家庭裁判所で「検認」という手続きが必要です(公正証書遺言は不要)。
【注意!】 検認なしに開封したり、勝手に内容を書き換えたりすると、5万円以下の過料に処される可能性があります。
遺言書がない場合:
相続人全員で話し合う「遺産分割協議」に進みます。
② 相続人と相続財産を確定する
誰が財産を受け継ぐ権利があるのか(相続人)、どんな財産があるのか(相続財産)を正確に把握することが、すべての基本です。
相続人の確定:
故人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取得し、法的に相続権を持つ人を確定します。
【意外な落とし穴】 故人が前妻との間に子どもがいた場合など、面識のない相続人が見つかることもあります。
相続財産の確定:
預貯金、不動産、株式などのプラスの財産だけでなく、借金や未払金といったマイナスの財産も全てリストアップします。
【重要期限:3ヶ月】 マイナスの財産が多く、相続したくない場合は、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に「相続放棄」を申し立てる必要があります。
相続でまず必要になる「5つの重要書類」
| 書類名 | 取得先 | 主な使用目的 |
|---|---|---|
| 故人の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 | 相続人の確定(出生〜死亡まで) |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 | 現在の相続人の確認 |
| 相続人全員の住民票 | 住民登録地の市区町村役場 | 遺産分割協議書への記載、不動産登記 |
| 故人の住民票除票 (または戸籍の附票) | 最終住民登録地の役場 | 故人の住所確認 |
| 相続人全員の印鑑登録証明書 | 住民登録地の市区町村役場 | 遺産分割協議書への捺印(3ヶ月以内) |
これらの書類は、金融機関、法務局(不動産登記)、税務署など、様々な機関に提出するため、原本のコピーを多めに取っておきましょう。
ステップ2:遺産分割協議から税務申告までの流れ
財産が確定し、相続人が誰か判明したら、いよいよ具体的な財産分けと手続きに入ります。
① 遺産分割協議と協議書の作成
遺言書がない場合、相続人全員で話し合い(遺産分割協議)、どの財産を誰がどれだけ受け取るかを決めます。
遺産分割協議:
相続人全員の同意が必要です。たとえ一人でも反対すれば、協議は成立しません。
【揉めないために】 話し合いは感情的になりがちです。故人の思いや今後の生活設計なども考慮しながら、冷静に進めることが重要です。
遺産分割協議書の作成:
話し合いで決まった内容を文書にしたものが「遺産分割協議書」です。
不動産の名義変更(登記)や、銀行口座の解約・名義変更など、後の全ての手続きで必要になる最重要書類です。
② 各種名義変更・解約手続き
遺産分割協議書が完成したら、いよいよ金融機関や法務局での手続きです。
不動産の登記(法務局):
故人名義の土地や建物を、新しい相続人の名義に変更します。
預貯金の解約・名義変更(金融機関):
銀行や証券会社で所定の手続きを行います。
自動車や保険の名義変更:
必要に応じて運輸支局や保険会社で手続きを行います。
③ 相続税の申告と納税
【重要期限:10ヶ月】 相続財産の合計が「基礎控除額」を超える場合は、相続開始から10ヶ月以内に税務署へ相続税の申告と納税を行う必要があります。
基礎控除額の計算式:
3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)
申告・納税:
税額が高い場合でも、配偶者の税額控除や小規模宅地の特例など、様々な特例措置があります。期限に間に合わせるためにも、早い段階で税理士に相談することを検討しましょう。
ステップ3:時間がない時の専門家への依頼方法
相続手続きには10ヶ月という申告期限があります。特に仕事が忙しい方や、相続人が多いなど複雑なケースでは、プロの力を借りることが賢明です。
| 専門家 | 主な相談内容と依頼の最適タイミング |
|---|---|
| 弁護士 | 遺産分割協議で揉めた時(交渉が必要な時)、遺留分侵害額請求など。【揉め始めたらすぐに】 |
| 司法書士 | 不動産の名義変更(登記)、相続放棄の手続き、遺産分割協議書の作成。【財産分けが決まった後】 |
| 税理士 | 相続税の申告・納税、各種控除(特例)の適用、生前贈与の相談。【財産が確定した直後】 |
私は親が亡くなった際、手続きをすべて自分ですることができました。遺産分割などで特に揉めることがなく、事務処理などが苦手でなければ、自分でチャレンジしてみるのも良いかもしれません。
FPに相談するメリット
FPは特定の専門分野に特化しているわけではありませんが、相続手続きの全体像(ロードマップ)を理解しており、お客様の状況に応じて最適な専門家(税理士、司法書士など)への橋渡し役となることができます。
相続手続きは、決して一人で抱え込む必要はありません。専門家をうまく活用することが、時間と心労の節約につながる一番の近道です。
まとめ:相続手続きロードマップ
相続手続きのロードマップは、この3つのステップを順番に進めるだけです。
- 【準備】 遺言書の確認と、相続人・相続財産の確定(特に相続放棄の3ヶ月期限に注意!)
- 【実行】 遺産分割協議を行い、各種名義変更、そして相続税の申告・納税(10ヶ月期限に注意!)
- 【活用】 困ったことや時間がない場合は、専門家をチームとして活用する。
このロードマップを頭に入れて、一歩ずつ確実に手続きを進めていきましょう。