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【FPが解説】老後の「健康」が最強の資産である理由

目次

なぜ今、健康を「資産」として考えるべきなのか

老後資金の計画において、「貯蓄額」や「運用利回り」が最も重要だと考えられがちですが、ファイナンシャルプランナー(FP)の視点から見ると、老後の経済的安定を左右する最大の要因は「健康」だと言えます。健康は、単なる肉体的な状態ではなく、すべての老後目標を達成するための最強の「基盤資産」と位置づけられます。

平均寿命と健康寿命のギャップ:老後資金を喰いつぶす「不健康期間」の現実

現代の日本は世界有数の長寿国ですが、平均寿命が延びる一方で、日常生活に制限が生じる期間、すなわち「不健康期間」の存在が、老後の資金計画における最大のリスクとなっています。

老後資金の計画は、統計的な平均寿命まで立てる必要がありますが、活動的で自立した生活を送れる期間(健康寿命)が短いと、貯蓄の使い道が根本的に変わってしまいます。本来、趣味や旅行、社会活動などに充てるはずだった資金の大部分が、医療費や介護費用に充当されることになり、豊かな老後の実現の邪魔をします。この「不健康期間」のコストを回避し、活動的な期間を最大限に延ばすことが、老後資産の価値を実質的に高めることにつながるのです。

健康資産がもたらす老後の二重のメリット

まず、費用の「節約効果」(守りの資産)です。健康状態を維持することで、将来発生する可能性のある高額な医療費や介護費用という「大きな負債」の発生そのものを予防し、貯蓄の目減りを防ぎます。これは、不確実な市場での運用リターンを期待するよりも、遥かに確実性の高い資産保全戦略です。

次に、QOLと生産性の「増加効果」(攻めの資産)です。健康であれば、高齢期に入っても趣味や社会活動を継続でき、もし必要であれば再雇用やパートタイム労働などによる収入機会を確保することも可能です 。健康維持は単なる長生きではなく、「支出の削減」と「活動機会の維持」という相乗効果を通じて、老後資金の実質的な購買力を最大化します。なぜなら、どれだけ貯蓄があっても、不健康であればその資金の使い道が医療・介護に限定され、豊かな生活を送るための「自由な支出」が不可能になってしまうためです。

健康を維持することが老後資金を増やす理由

健康を維持することの経済効果は、抽象的なものではなく、具体的な介護費用の統計データから明確に算出することができます。要介護状態に移行することは、老後資金計画に「計画外の沈没コスト」を発生させます。このコストを回避することが、健康投資の直接的なリターンです。

医療費と介護費用のリアルな統計データ

公益財団法人生命保険文化センターの「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護が必要となった期間の平均は4年7ヵ月(約55ヵ月)に及んでいます 。

この期間中にかかる費用の負担は甚大です。月々の介護費用(サービス利用料や消耗品費など)の平均は9.0万円であり、さらに介護用ベッドの購入や自宅のバリアフリー改修などの一時費用が平均47万円かかると報告されています 。

これらのデータに基づいて総費用を概算すると、(月額9.0万円 × 55ヵ月)+ 47万円となり、約542万円という計画外の大きな支出源となります。この約542万円という介護リスクを未然に回避できるという点が、健康維持がもたらす最も直接的かつ強力な経済効果となります。

施設介護 vs. 在宅介護:月額費用差の認識

要介護状態になった場合、選択する介護形態によって家計負担は大きく異なります。

在宅介護
月額費用:5.2万円
内訳:介護サービス利用料など(自己負担分)

施設介護
月額費用:13.8万円
内訳:施設サービス費、居住費、食費、日常生活費など

在宅介護の月額平均費用が5.2万円であるのに対し、施設介護の月額平均は13.8万円と、その差は月々8.6万円にもなります 。健康状態が悪化し要介護度が上昇すると、自力での生活が困難になり、費用が高額な施設介護を選択せざるを得なくなる可能性が高まります。したがって、自立した生活(健康)を維持することは、単に生活の質を高めるだけでなく、介護方法の「選択肢」を可能な限り保ち、結果として低コストな在宅介護の可能性を高めるという、戦略的な費用削減策となります。

健康維持は、株式投資などとは異なり、「将来の確実な支出」を減らす行為であり、確実なリターン(節約)を生みます。予防医療(健診や予防接種)に少額を投資することで、将来の数十万円、数百万円の治療費を回避できます。この回避額こそが「健康貯蓄」の価値です。

健康維持によって生まれる「時間の資産」と「労働機会の確保」

健康な生活は、医療機関への通院や体調不良による療養時間を大幅に削減します。削減されたその時間は、趣味、社会貢献、あるいは収入を得るための生産的な活動に充てることができます。これは、時間そのものを「資産」として活用することを意味します。

また、身体的・精神的な健康が保たれていれば、定年後も再雇用やパートタイムの仕事を通じて、年金収入を補完する形で収入を確保し続けることが可能です。これにより、老後資金の取り崩しを遅らせ、資産寿命を延ばすことが可能になります。

医療費の負担を減らすための賢い健康管理

健康な生活を心がけるだけでなく、日本の公的医療制度を深く理解し、賢く利用することも、老後の医療費負担を最小限に抑えるための重要なFP戦略です。

「高額療養費制度」の仕組みと活用法

高額療養費制度は、月の初めから末日までの1ヵ月間にかかった医療費の自己負担額が、所得に応じた上限額を超えた場合、その超えた分が公的医療保険から支給される制度です。この制度は、患者の医療費負担を軽減することを目的としています。

この制度を利用する場合、いったん医療機関の窓口で自己負担分の全額(通常は3割または1割)を支払い、その後、加入している健康保険組合や市町村国保に申請することで払い戻しを受けます 。このため、高額な医療費を支払った場合、払い戻しまでの数ヵ月間、一時的な支払いに対応できるだけの流動性(現金)を確保しておくことが資金計画上の重要なポイントとなります。

しかし、マイナンバーカードを保険証として「マイナ保険証」を利用した場合、窓口で自己負担額の上限額が計算され、自己負担上限額を超えた金額の立て替え払いが不要になります。
マイナ保険証を登録することで、一時的な支払いを回避することが可能となります。

70歳以上の自己負担上限額と所得区分ごとの具体的な目安

高額療養費の自己負担限度額は、年齢(70歳未満か以上か)と所得区分によって大きく異なります。特に70歳以上の高齢者は、同一月内であれば、病院ごとの金額制限なく、自己負担分をすべて合算できる優遇措置があります。

自己負担限度額は、所得区分が低いほど優遇されます。例えば、年収370万円以下の一般区分の上限額は57,600円に抑えられています。一方で、現役世代と同等の収入がある「現役並み所得者」と見なされる層は、公的制度による保護が相対的に小さくなります。年収約1,160万円以上の現役並みでは、医療費総額によっては上限額が252,600円+(医療費‐842,000)×1%と高額になります

この「現役並み所得者」層は、資産規模が大きくても、病気や怪我による短期的な経済的ショックが大きくなるリスクがあるため、予防的な健康投資の費用対効果が非常に高くなります。

「多数回該当」の軽減措置を活用する

直近12ヵ月間に高額療養費の支給が3回以上あった世帯は、4回目以降の自己負担限度額がさらに軽減されます 。これは、慢性的な疾患や難病などで継続的に高額な治療が必要な世帯に対し、経済的負担を長期的に軽減する重要な仕組みです。例えば、現役並みの上限額は通常80,100円+αですが、多数回該当となると44,400円まで軽減されます

セルフメディケーションで医療費を賢く節約する

セルフメディケーションとは、世界保健機関(WHO)の定義にもあるように、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」を指します。

具体的な取り組みとしては、適度な運動、十分な睡眠、バランスの取れた食事、そして体温・血圧・体重などの日常的な体調管理が含まれます 。これらの習慣を日頃から意識することで、健康の維持、生活習慣病の予防や改善につながり、結果として病気による通院が減少し、全体の医療費増加を抑制する節約効果が期待できます。

セルフメディケーションを積極的に行う人への経済的なインセンティブとして、「セルフメディケーション税制」(医療費控除の特例)があります。これは、健康診断や予防接種などの健康増進の取り組みを行っている人が、指定されたOTC医薬品(市販薬)を年間で一定額以上購入した場合に、その購入費用について所得控除を受けられる制度です。健康管理を積極的に実践することが、結果的に税制優遇(節税)につながるという、経済的なリターンが公的に設計されています。

セルフメディケーションの一環としてOTC医薬品を活用する際には、症状に合った薬を選ぶために、薬剤師などの専門家に相談することが重要です。また、特に高齢期に注意すべきは、薬の重複や多剤による副作用(ポリファーマシー)を防ぐことです。日頃から「お薬手帳」で自分の服用薬を記録し、病院や薬局で医師や薬剤師に提示できるようにすることが、安全な健康管理に必須となります。

健康寿命を延ばすための具体的な行動

健康寿命を延ばし、日常生活に支障なく豊かな時間を過ごすためには、日々の生活習慣の改善が不可欠です。厚生労働省は、健康寿命延伸のために「運動習慣」「食生活の改善」「禁煙」「ストレス管理」「十分な睡眠の確保」「社会活動への参加」「定期的な健診・検診」の7つの方法を推奨しています。

運動習慣:体力維持は「要介護リスク」の最大の防御策

厚生労働省が公表する「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、65歳以上の健康な人に対して、1日40分以上(約6,000歩以上)の運動が推奨されています。

重要なのは、運動の強度や量は個人差を考慮し、無理なく調整しながら継続することです。また、座りっぱなしの時間が長くならないよう、日常生活でこまめに体を動かす意識を持つことが、健康寿命の延伸につながります。

高齢期に運動を行うことの最大の経済的メリットは、筋力維持・増強だけでなく、身体機能の向上や転倒リスクの軽減につながる点です 。転倒による骨折は、要介護状態へ移行する最も大きなきっかけの一つであり、その結果として発生する数百万単位の介護費用を回避するためには、運動による転倒予防が極めて重要な「経済的防御策」となります。

食生活:リスクを遠ざける栄養戦略

健康寿命を延ばすためには、栄養バランスの取れた食生活が欠かせません。特に生活習慣病予防のため、厚生労働省は1日350gの野菜摂取を推奨しています。

日本人の平均的な野菜摂取量は1日250gと言われており、目標達成のためには現在の摂取量に100gの野菜を追加する必要があります。例えば、「もう一品サラダを加える」「野菜スープを取り入れる」など、手軽にできる具体的な方法から始めることが、将来の健康を守るための重要な一歩となります。

ライフスタイル管理:睡眠、禁煙、ストレス回避の重要性

運動と食事に加え、ライフスタイルの管理も重要です。心理社会的ストレスを回避する努力は、虚血性心疾患やメタボリックシンドロームのリスク増加を防ぐだけでなく、うつ病のリスク軽減にも役立ちます 。ストレスによる疾患は高額な治療を要することが多いため、日頃からのストレス管理が結果として医療費支出の回避につながります。

また、十分な睡眠の確保と禁煙も、健康寿命延伸のための柱とされています。

定期的な健診・検診の推奨

定期的な健康診断(健診)や特定の疾患の有無を調べる検査・診察(検診)は、自分の体の状態を把握する上で欠かせません 。早期に異常を発見し、重症化する前に治療を開始することで、治療にかかる時間、費用、そして身体的な負担を最小限に抑えることが可能となります。

お金だけでは得られない「無形資産」の重要性

老後の豊かさ(ウェルビーイング)は、金融資産の多寡だけでは測れません。健康は、金銭では買えない「無形資産」を最大化する鍵でもあります。

老後のウェルビーイング(幸福度)を支える3つの基盤

豊かな老後生活を送るためには、以下の3つの基盤が重要だとされています 。

  1. 老後の安心を支える経済的安定の確保
  2. 老後の生きがいを創出する趣味の充実
  3. 家族への負担を減らす自立した生活の維持

ここで注目すべきは、健康であること(自立した生活)が、経済的安定を維持し、かつ趣味を充実させるための前提条件となることです。健康資産は、この三つの基盤全てに寄与する、まさに「基盤の基盤」としての役割を果たします。

「社会とのつながり」が健康状態と幸福感を高める

主観的幸福感と相関の高い指標として、「暮らしの質」「生きがい」「心の状態」に次いで「社会とのつながり」が挙げられます。

特に「社会とのつながり」(交友関係やコミュニティへの参加)は、「健康状態」とも高い相関を持つことが示されています。これは、社会的なつながりを持つことが、孤独や孤立を防ぎ、心理的ストレスを軽減し、結果として身体的健康の維持にも貢献するためです 。老後資金計画において、社会的な活動費や趣味への投資を組み込むことは、単なる消費ではなく、将来の医療・介護リスクを軽減する「無形資産」への賢明な投資として捉えるべきです。

趣味の充実と認知機能の維持:脳を活性化する時間投資

趣味を通じて脳を活性化させることは、認知機能の維持に非常に効果的です。また、趣味を通じて他者と交流し続けることで、社会的なつながりも維持・拡大できます。

認知症は要介護状態の主要な原因の一つであり、その発症は経済的な介護負担を一気に高めることになります。趣味や交流といった活動を通じて認知機能を維持することは、この老後最大の「経済リスク」を回避するための非薬物的な予防策として高い価値を持ちます。

まとめ:健康こそが人生100年時代を豊かにする複利商品

健康資産の「複利効果」

老後の「健康」は、すべての金融資産の土台を支える最強の資産です。健康維持のための日々の小さな努力(運動、食事改善、予防接種)は、単線的な効果で終わらず、将来の大きな経済的損失(医療費、介護費)を回避すると同時に、豊かな時間(生きがい、社会参加)を生み出すという多面的なリターンを生み出します。この相乗効果は、時間の経過とともに雪だるま式に老後の幸福度を高める「複利効果」として作用します。

老後の経済的な豊かさは、貯蓄額の絶対値だけでなく、その貯蓄を何に使えるか(=健康寿命)によって決まります。

今すぐ始めるべき「健康投資」チェックリスト

  • 1日40分(約6,000歩)を目安に、無理のない範囲で運動を継続する。
  • 野菜摂取量1日350gの目標を設定し、毎日の食事で100gの野菜を追加する。
  • 高額療養費制度の所得区分ごとの上限額や、セルフメディケーション税制を確認する。
  • インフルエンザや肺炎球菌ワクチンなどの予防接種補助を積極的に利用する。

まとめ:FPが断言する「健康資産」の絶対的価値

FPとして断言できるのは、老後の経済的・精神的ウェルビーイングを確固たるものにする上で、健康資産に勝るものはないということです。健康は、あなたが描く老後の全ての目標(旅行、趣味、社会貢献、家族との時間)を達成するための、最も重要な「土台」であり、絶対的に必須の「インフラ」です。人生100年時代を豊かに生き抜くため、金融資産の準備と並行し、今日から「健康資産」への賢い投資を始めましょう。